北原白秋「思ひ出」

北原白秋「思ひ出」

北原白秋の随筆『思ひ出』は、彼自身の幼少期や青春時代を振り返る自伝的作品です。この随筆は、彼が生まれ育った九州・柳川の豊かな自然と風土、家族や友人との心温まる交流、そして詩人としての目覚めを語っています。文章全体には、白秋が感じた人々との結びつきや、彼の芸術的感性を育んだ原風景が鮮やかに描かれており、読者に郷愁を誘うような叙情的な描写が多く見られます。

特に印象的なのは、彼が自然や風土に深く心を寄せていた点です。川辺や山々の風景、季節の移り変わりなどを通して、自然が白秋に与えた感覚的な影響が強調されています。また、子供時代に触れた音や香りが、後に彼の詩や歌謡の感覚に結びついていく過程も興味深いです。このように、彼の詩的世界は、単なる言葉の遊びではなく、幼少期から積み重ねてきた感覚的な体験と強く結びついていることが感じられます。

評論として、この随筆は、白秋という詩人の内面的な成長と、彼が詩を通じて世界をどう感じ、表現したのかを知る上で重要な作品です。彼の詩作の根底には、日本の自然や風土、そして人々との交流が深く根付いていることが理解でき、その感性がどのように形作られたのかがよく分かります。また、白秋の言葉遣いや文体には独特のリズムがあり、詩的な美しさが随筆の中でも表現されています。これは彼が詩人としての感覚を常に意識しながら書いているからこそでしょう。

『思ひ出』は単なる懐古ではなく、白秋が詩人としての自己を深く掘り下げ、彼自身の芸術的成長を反映させた作品です。そのため、感傷的でありながらも、彼の詩人としての視点が随所に光る点が魅力的です。

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