菊池寛「父帰る」
菊池寛の「父帰る」は、家族の絆と赦しをテーマにした戯曲で、行方不明だった父親が突如として家族のもとに戻ってくるという物語です。物語は、20年間にわたり家族を捨てて行方不明になっていた父親が帰ってきたところから始まります。父親の登場により、家族の中に溜まっていた感情や葛藤が一気に表面化します。
家を出た父親は、自分が家庭を捨てたことを悔いており、家族に受け入れてもらおうとしますが、息子たちは父親を冷たく拒絶します。特に長男は、家を出た父を許さず、怒りと失望を露わにします。しかし、母親の懇願や、時間の経過とともに次第に息子たちも心を開き、父親を受け入れることで物語は終わります。
この作品では、家族が抱える複雑な感情や、赦しの難しさが描かれています。菊池寛は、父親が家を出たことによる家族の崩壊と、その後の再生を描くことで、人間関係の脆さと修復の可能性を示しています。特に、息子たちが抱える怒りと失望が、家族という存在に対する深い愛情や期待の裏返しであることが、物語の中で明らかにされています。
「父帰る」は、家族の絆や赦しについての普遍的なテーマを扱っており、そのシンプルでありながらも深い物語は、読者や観客に強い感動を与える作品です。また、菊池寛の特有の心理描写や人物造形が、登場人物たちの内面的な葛藤をリアルに伝えており、その点でも評価されています。